2022.3.3

疾患管理のサポートで、術後の患者さんの安心をつなぐ。

疾患管理ツールとしてのYaDocを実証研究でご活用いただいている、聖路加国際病院呼吸器外科の小島先生にお話を伺ってきました。疾患管理システムYaDocは、医療者や患者さんにどのように役立つのでしょうか。

※本記事は2019年8月に実施したインタビューを再録したものです。

オンライン診療で手術後のフォローを。

私は日頃から呼吸器の手術をメインにしています。外科領域の医師として、術後の患者さんの自分が見えていないところの回復過程や、あるいは時間や頻度が限られる外来の間の状態のフォローアップを何かで埋められないかと思っていました。研究費を割いてアプリを作ろうかとも考えたのですが、おそらく自分の仕事ではないなと思い至り、オンライン診療やモニタリングを開発している何社かと意見交換をすることにしたのです。

オンライン診療は、どの企業さんもいろいろな切り口で取り組んでいらっしゃいますね。チャットや資料送付などの機能が付いた、いわゆるオンライン診療のパッケージは各社さん揃えていらっしゃいました。ただ、モニタリングを充実させるという点ではIHさんが早かったと記憶しています。先に述べたように、術後のフォローアップを充実させたいと思っていたので、見ている方向性が似ているなと思いましたし、外来診療を置き換える形でのオンライン診療というより、もっと先へ踏み込もうという印象がありました。

モニタリングは医療者のサポートツールになり、患者さんの安心につながる。

患者さんは手術のあと、比較的早い時期に退院して家での療養になります。さまざまな理由で、以前よりも退院までの日数は短くなっているので、一人暮らしの患者さん、あるいはご家族がいても昼間は不在のご家庭などの場合、術後すぐの退院に不安を感じる方もいらっしゃいます。モニタリングを使った疾患管理のサポートは、そういう患者さんに使っていただきやすいと思います。

また、診療科によっては、患者さんへの細やかなケアを実現するために看護師による外来を設けているところがあります。そこでは専門資格を持つ看護師が診たりするのですが、病気全体のことを把握し、医師にも相談しながらやりたいという場合に、こういうツールは非常に助けになると思います。さらに、医療者間、または医療者と患者さんの間に密なコミュニケーションが生まれるので、患者さんにも安心してもらえるのではないでしょうか。

エビデンス構築としてのモニタリング。

例えば肺がんで手術をした患者さんに、状態にあわせてではありますが「1ヵ月後くらいに仕事復帰できますよ」と言うことがあります。しかし、術後から会社に復帰できるまでどれだけかかるか、という点についてはちゃんとしたデータは残念ながらありません。以前は、万歩計を患者さんに渡し、何週間かごとにデータを送ってもらうような形で、工夫してみたことがあり、その時のデータは患者さんの大きな安心に繋がっていると思います。今ではYaDocのようなツールもあるので、もっといろんな形で患者さんの回復の経過を見ることができますし、その経過を手助けすることも出来ると考えています。

ほかにも、例えば整形外科で足の骨折の術後に、骨折前と同じように歩けるようになったのはいつか等、疾患ごとに1~2個くらいの症状に着目し、その回復過程を、基本のアプリケーションの上にモジュール的に選択してモニタリングしていく形も、外科の術後の回復過程のエビデンス構築という観点ではいいのではないでしょうか。

シンプルなまま、よりダイレクトになってほしい。

YaDocはシンプルなままでいてほしいと思います。モニタリングは、そこだけ使えるように切り分けをして、できればワンクリックでも少ないほうがよく、文字の大きさなど課題はあるものの一画面の中でスクロールを減らした状態で処理できるほうが使いやすい。しかし、すでに必要な機能や基本となるものは備えていらっしゃるので、あとは測定機器からの連携ではないでしょうか。よりスムーズにダイレクトに、普段の生活の一環として使えるくらいの状況になってくると、医療者も患者さんも楽になると思います。

医療者はご存知の通り、現状をやりきるだけで相当な超過ワークになっている場合が多いです。使い方が面倒だとか、ワークが増えると思われてしまうと、残念ながらそこから先に進めません。ですので、仕事が増えたとしても、患者さんがいい方向に傾く、仕事の役に立つなど、さまざまな観点で、医療のクオリティ向上につながると伝えていくのが大切です。例えば、モニタリングを使えば患者さん100人のうち10人の再入院があるとしたら、そのうち2人は再入院しなくて済む、といったことも伝えていけるでしょう。

患者さん側も同じです。おそらく記録することに対してモチベートし続けることが最大のポイントです。疾患を抱えている人にとっては、普通の人以上に、手間や負担が少なくなる形でないと難しいと思います。そもそも、アプリがあるから使うといった単純なものではなく、主治医や担当看護師と患者さんの人間関係が成り立っていて、患者さんが「この人の言うことならやろう」と思ってはじめて使われます。その信頼関係の前提は忘れないほうがいいですし、継続してやってくれるには、毎日体重計に乗ればあとはYaDocが何とかしてくれる、というくらいのシンプルさが必要だと思います。

あとはアラートシステムですね。すでに聖路加国際大学の方では、訪問看護の患者さんの記録の中でアラートシステムや遠隔看護のためのプロトコルを作っている先生がいらっしゃるのですが、やっぱり皆さん必要なのではと思うのです。どのくらいしんどかったら病院に行ったほうがいい、電話したほうがいい、という目安があると、患者さんは安心できますよね。そこが自動化できるとさらに良いシステムになっていくと思います。

医療にテクノロジーのサポートを。

最後に、医療というのは、本当に必要になった人にどれだけ届けられるか、救えるかという視点が大切です。患者さんの主訴や状態が、テクノロジーのサポートによって可視化されることで、より良い医療を届けられるようになっていくと思います。これからのYaDocにも、期待しています。


学校法人聖路加国際大学 聖路加国際病院
呼吸器外科/ ロボット手術センター

医長 小島 史嗣

京都大学病院・姫路医療センター等にて、肺癌に対する低侵襲手術を中心に修練した後、大学院にて再生医工学・医療器機開発の研究に取り組み学位を取得。2015 年より聖路加国際病院で診療に従事。2017 年 10 月よりロボット手術センターを兼務し、Da Vinci による手術を開始。

日本呼吸器外科学会専門医。日本コンピューター外科学会評議員。聖路加国際大学臨床准教授。京都大学医学部卒業(M.D.)。京都大学大学院医学研究科博士課程修了(Ph.D.)。

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