2022.9.2

ICTを活用したチーム医療で診療の質向上を。(前編)

長崎県にある社会医療法人春回会 井上病院では、YaDocのモニタリング機能を活用し、チーム医療の強化や病診連携の取り組みを行っています。病院でICTを活用することメリットや今後の展望などについて、病院長の吉嶺 裕之先生に伺いました。

6、7年前から感じていた遠隔モニタリングの重要性

遠隔モニタリングの重要性については、かなり以前から感じていました。私の専門領域は呼吸器内科と睡眠医療で、多くの睡眠時無呼吸症候群の患者さんを診ています。

CPAP(※1)は非常に効果が出る治療なのですが、あくまでも対症療法であるため、しっかり使わないと効果がでませんし、使用時間が短いと治療効果もそれほどでません。高い治療効果を出すには「いかにしてアドヒアランスを高めるか」がキーワードとなり、CPAPが出た20年以上前からずっと続いている課題です。

10年程前、アメリカではCPAP導入時期の使用状況によって保険償還が決まるという決定がありました。つまり、きちんと使っていないと、その医療費に関して公的なサポートが出ないということになりました。
CPAPのメーカー側は、そこそこちゃんと使われているだろうと思っていたようなのですが、実は意外とアドヒアランスが良くないということが分かりました。アドヒアランスが悪いために保険償還がなくなれば、当然利用者は減っていき、在宅機器会社も収益が上がりませんので、これは大変な問題だということになりました。

そんな中、初期対応で起こるようなトラブルをきちんと解決する事で、長期的に使用継続できるということが分かってきました。そのために自宅で使用しているCPAPのデータをモニタリングし、問題がある人をピックアップし介入していくシステムが必要となったのです。そこで、ICT技術を上手く利用し、各メーカーがCPAPのデータをクラウドにあげてその結果を元に患者さんに介入するという仕組みを作り上げました。

欧米ではこのCPAPの遠隔モニタリングシステムの発達により、必要な患者さんに介入ができる仕組みができたことで、アドヒアランスが悪かった患者さんも治療が上手くいくようになったのです。

私はたまたま6、7年前ぐらいにアメリカのあるCPAPメーカーの本社を訪問し、このシステムの事を知ったのですが、ちょうどその頃に日本にもこのコンセプトのもとに作られた製品が入ってきたこともあり、遠隔モニタリングの重要性を感じるようになっていました。

 

ICTの導入でより良い診療を提供したい

ただしCPAPで取るデータはあくまでも機械の作動状況なので、何時間使用しているという情報しか分からず、患者さん自身の症状の変化は分かりません。「昼間の眠気がどうだったか」、「寝付くまでどのくらい時間がかかったか」という患者さんの情報をきちんと取るためには、CPAPの遠隔モニタリングのデータとは別に、質問票のようなものが必要だと思っていました。

それからもう一つ、CPAPは継続的に使う人が多い治療でもあり、長い人だと5年、10年使う患者さんもいます。その結果、当院では月に約800名の患者さんが受診されるようになっているのですが、そうなると外来は混みますし、症状が安定している患者さんはごく短時間で診察が終わってしまうこともあります。

そのような中で、安定した患者さんは1ヶ月おきの受診ではなく、2ヶ月から3ヶ月に一回の受診でいいのではないか、そもそも電話での応対でも良いのではないかという思いがでてきました。患者さんも、診療・通院のためにわざわざ仕事を休んだりし時間を工面して来院されており、コミュニケーションを取りながらも、医師も患者さんにとっても効率のよいシステムの必要性を感じていました。

症状の変化をどのように捉えるかという意味では、リアルタイムに電話で話す時の情報のみでは不十分な事も多く、患者さん自身が診察と診察の間の状況を入力し、これを医療者側が把握できるシステムが必要です。そのような事を考えている時、たまたま武藤先生(※2)にお会いしYaDocのお話を伺い、YaDocにモニタリング機能がある事を知りました。
体重や血圧などはデフォルトで誰でも使用できますし、医者がオリジナルの問診を作成することもでき、これは便利だと思い病院にYaDocを導入いたしました。

 

コミュニケーションツールの一つとして活用する

2019年にYaDocを導入したのですが、ほどなくコロナが発生したため、感染リスクを減らすために積極的にオンライン診療を紹介しました。2021年夏にCPAPの患者さんを中心にアンケートを実施したところ、オンライン診療でフォローしてもアドヒアランス等が落ちるわけではないことがわかりましたので、現在も続けるに至っています。とはいえ、スマホの操作が苦手な高齢者や複数の診療科を受診している方など、オンライン診療よりも来院し対面診療を希望する患者さんもいますので、患者さん一人一人とのお話し合いをして、対面診療とオンライン診療のどちらにするかを決めています。

最近は、対面診療とオンライン診療の使い分けをしている患者さんもいます。例えば、コロナの感染者数が増えた時にはオンライン診療をおこない、波が落ち着いたら対面診療とする方。採血のためだけに来院し、オンラインで検査結果の説明を受けるといった方もおられます。患者さんとの話し合いの中で、対面診療とオンライン診療をうまく組み合わせながら実施するスタイルに少しずつ変わっていっています。

睡眠時無呼吸症候群は、物理的に気道が狭くなる閉塞型と、脳血管障害や心不全などによる中枢型の2つに分類されます。

以前、CPAPを使用して安定していた患者さんの無呼吸指数が突然高くなり、中枢型無呼吸が増えたということがありました。患者さんに事情を伺うと、「もともと心疾患があり、無呼吸指数が高くなった時は夜中に息苦しかった。」という事がわかりました。これらの情報から、もしかすると潜在的に心機能が低下したため、CPAP治療中であっても中枢型無呼吸が出現したのではないかと推測しました。寝る前のアルコールを控えてもらったり、圧や圧補助機能を調整したりすることで、中枢型無呼吸が少なくなりました。これを、対面ではなくメールのやり取りとオンライン診療で実施しました。もちろんCPAP遠隔モニタンリングデータも確認をしながらです。

リスクをどこまで回避するかという問題もありますが、患者さんがすぐには病院に来られない時に、代替的にコミュニケーションを取るツールとしてオンライン診療を活用しています。オンライン診療であれば、患者さんは病院へ行かなくても主治医の顔を見ながら受診することができ、いつもの薬がもらえるので、安心感や満足度の向上につながります。患者さんが満足してくれることも、当院にとってのメリットだと感じています。

 

モニタリングルールでタスクをシェアし、チーム医療を強化

モニタリングで診療の質をあげていくためには、患者さんにしっかり入力してもらう必要がありますので、どうやって入力してもらうかが鍵となってきます。

当院では、「この疾患の患者さんは週一で確認して問題があればメッセージを送る。」といったモニタリングルールを決め、看護師へこの内容を指示し、家にいる患者さんをサポートする仕組みができないかと考え、モニタリングとケアを行う看護師中心の部署を立ち上げました。看護師に分からないことがあった時は必要に応じて医師が入るというように、タスクをシェアしチーム医療の体制で運営をしています。

モニタリングがきちんとできると、症状を把握しやすくなります。例えば、気管支喘息の発作の頻度が多い場合は、発作止めを沢山吸入している状態が見える=「コントロールが悪い状況」などを、患者さんと医療者側が共有できるので、患者さんへの指導もしやすくなります。

※1:睡眠時無呼吸症候群の治療に用いる機器
※2:弊社 代表取締役会長

 

インタビュー前編では、オンライン診療やモニタリングの必要性や、診療の質を上げるためのチーム医療の取り組み等についてお伺いしました。後編では、YaDocを使った病診連携や、今後の展望などをお伺いします。



社会医療法人春回会 井上病院 病院長
吉嶺 裕之

長崎大学医学部卒業後、長崎大学熱帯医学研究所臨床部門へ入局。関連病院への出向を経て、平成18年から社会医療法人春回会 井上病院に勤務。平成31年からは同病院の院長を務める。
医療におけるICTの活用に早くから着目し、遠隔モニタリングを用いたチーム医療体制の構築や、月に100件以上のオンライン診療を実施。
長崎県における、ICTを活用した医療提供のシステム構築を考え、実践されている。
専門領域は、呼吸器内科、感染症内科、睡眠呼吸障害、睡眠医療、禁煙診療

【所属学会】
日本内科学会(総合内科専門医・指導医)、日本睡眠学会 (認定医)、遠隔医療委員会委員
日本呼吸器学会(専門医)、日本感染症学会(専門医・指導医、評議員)、ICD (Infection Control Doctor)、日本遠隔医療学会(運営委員)

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