2022.3.31
患者さん目線のICTサービスで睡眠治療の向上を。
虎の門病院睡眠センターでは、YaDocを使い、患者さんが睡眠の専門医にオンラインで相談できる実証研究を行っています。睡眠を取り巻く環境やICT活用に期待することを、専門医の富田康弘先生に伺いました。
※本記事は2020年1月に実施したインタビューを再録したものです。
睡眠に問題を抱える人は増加傾向
日本では肥満人口が増加しており、肥満に合併している睡眠時無呼吸症候群も、近年増加傾向にあります。また、日本人の睡眠時間は国内の統計によると年々短くなっており、OECDのデータでも他国と比較すると圧倒的に短い現状があります。
他方、患者さんを取り巻く環境には、患者さんが自分の睡眠に問題があると認知しても、病院の標榜科に「睡眠科」という名前はなく、病院によって、呼吸器科、耳鼻科、精神科や、私のように循環器の医師が診ているため、患者さんは何科を受診すればよいのか分からないケースがあったり、患者さんが睡眠の問題を解決しようとしたとき、WEBで検索すると医学的な根拠に乏しい情報や、誤解を招く情報が出てくることがあります。
このようなことから、私は、睡眠時間不足と無呼吸の問題について取り組むにあたり、患者さんが情報を正しく選択でき、睡眠の専門機関があることの認知が進み、そこに患者さんがたどり着けるような社会になっていく必要があると思っています。
『睡眠に関する不安は病院で解消できる』ということの認知拡大が必要
ICTの得意とするところは、日々のデータを蓄積して管理することではないでしょうか。最も大事なのは患者さん自身の自己管理ですので、そこをサポートするという観点でICTは親和性が高いと思います。
例えば、スマホアプリやウェアラブルデバイスで睡眠時間の自己管理をしている人がいますし、他にも、医療検査のレベルとは異なるものの、いびきの音を録音できるアプリをきっかけに、ご自身で問題に気付いて来院する方もいます。このように、ICTの普及によって睡眠に対して興味を持っていたり、問題を自覚した人に向けて、まずは正しく睡眠のことを理解してもらうのが第一歩ではないでしょうか。
一方で、睡眠に関心を持つ人が増えてきているものの、病院に行こうと思う人はまだ少数。無呼吸による眠気も病気だと思っている人は少なく、中には眠気に気付いていない人もいます。もちろん、眠気は睡眠時間不足による場合もあるため、原因はいろいろなのですが、病院に来れば睡眠の不安が解決できる方法があることは、広く認知されてほしいと思います。
ICTで患者さんに安心感を提供したい
その点で、今回一緒に取り組ませていただいているYaDocを使った『睡眠専門医へのオンライン相談サービス』は、患者さんの受診の敷居を下げられるのではないでしょうか。例えば検診後の要フォローの患者さんに対しては、『睡眠専門医へのオンライン相談サービス』のほうが心理的なハードルが低く、治療の次のステップに進みやすいのではないでしょうか。
また、将来的に活用が進めば、睡眠時無呼吸症候群だけでなく、他の睡眠衛生の問題がある人にも我々の介入機会が増え、患者さんの役に立てるのではないかなと思います。そういった期待もあって、今回、検査を一度受けた患者さんに、オンライン相談の機会を提供する取り組みから始めさせていただいたわけです。
今後は、血圧や体重の管理などに加えて睡眠時間のデータが取れるなど、患者さん自身が管理できるものがあるといいですね。それらの記録データの内容によって、アドバイスの内容や投薬判断も、より良いものになると考えます。シンプルなツールでも、診療の役に立つと思います。
さらには、患者さんの自己管理能力が高まるようなサイクルがつくれるといいですね。先日、心不全の患者さんにYaDocを使っていただきメッセージのやりとりをしたところ「診てもらえていると感じた」という声があり、安心感を提供できたのかなと思いました。これらの安心感は、患者さんが日々データを入力するモチベーションの1つにもなると思いますし、ICTを通じて、自己管理能力が高まるような期待ができると感じました。
患者さん目線のサービスを
患者さんが正しく治療を受けるまでの流れにはさまざまな障壁がありますが、インテグリティ・ヘルスケアさんとは、それをいかにして取り除くかというコンセプトを共有できたことはとても大きかったです。「こういうことができますか?」という質問に対して「できますよ」とすぐにお返事をいただけました。
病院のニーズに合わせてYaDocをカスタマイズできるのを心強く思いました。もしかしたら開発の過程で、汎用性か個別性、どちらを優先するかの判断は難しいかもしれませんが、現状はまだ創造期でもあるため、個々の病院の事情にあわせて、かつ広く使える視点も持ちつつ、提供していただけることを期待しています。
やってみないと分からないことがあるのも理解しています。私たちの現場感も積極的にお伝えしていきますので、これからも一緒に患者さん目線のサービスを考え、一歩ずつ進めながら、課題を解決していきましょう。
国家公務員共済組合連合会 虎の門病院
睡眠呼吸器科 / 循環器センター内科
富田 康弘
虎の門病院にて循環器内科医として従事しながら、同院睡眠センターにて睡眠時無呼吸を中心とした睡眠医療に携わる。
虎の門病院睡眠呼吸器科医長、循環器センター内科医員。総合内科専門医・循環器専門医・睡眠専門医・プライマリケア認定医。東京大学医学部卒業(MD)。順天堂大学大学院医学研究科博士課程修了(Ph.D.)。
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